CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第87回 山王テクノアーツ(株)

『高品質ラベル・マーキングは“空”を飛び、“陸”を駆ける』

取材先 山王テクノアーツ株式会社(代表取締役社長 田中 祐 氏)
所在地 八王子市石川町737
電 話  042-646-1971
U R L  www.sanno-ta.jp/



 飛行機の機体を彩る、アニメや映画のキャラクターをデザインした迫力あるマーキング。新幹線のシンボルマークやバスの車体全体が広告塔となる「ラッピングバス」といった大きなものから、初心者マーク、あるいは電化製品に貼りつける「注意書き」のような小さな物に至るまで、いわゆる「特殊印刷」の分野で幅広い事業を展開する山王テクノアーツ(株)。
 今回は、「2代目」として妻の父である創業者の家業を承継し、「『元気』をラベルに乗せて。」という経営理念のもと当社の舵を握る、代表取締役の田中祐(たなかゆう)社長を取材し、種々話を伺った。
 


代表取締役 田中 祐さん


システム開発を自らこなす“IT社長”


八王子市「小宮小学校」側にある
本社工場
   田中社長は、元「マイクロソフト」の出身。14年前、現在「取締役」でもある奥様と「事業承継」を前提に結婚した。しかしすぐには会社に入らず、「やり残している仕事がある」とマイクロソフトでの仕事を継続する。当時、田中社長は「ウィンドウズ」のサポートマネージャーとして、一時社会現象にもなった「2000年問題」に対応しなくてはならない重要なポストを担っていた。


飛行機の機体へマーキング


  「ITの世界は『ドッグイヤー』と言われ、世の中の4倍のスピードで動いている、と言われています。そこで10年間仕事をさせていただいたということは40年勤めあげたことと同じなのではないか、と。 妻との結婚も何かのご縁。『後継者がいない』と先代社長も困っていました。このご縁を素直に『受け入れてみよう』と。自分がどれだけ周りに良い影響を与えられる人間になれるのか試してみたくて。そして7年前、当社に入る決心を固めました」 IT業界にいた経験から、中小企業のIT活用の重要性、またその効果については熟知していた。真っ先に始めたのは社内の「IT化」。中野本社と八王子工場をVPNで繋ぎ、“紙”ベースのやり取りをデータベース化した。社内の生産管理システムは、何と田中社長自らが開発したシステムを使い、現在でも運用している。田中社長の面目躍如である。



“高品質”なラベルを、適切な価格で安定供給

 山王テクノアーツ(株)は、昭和42年、米国3M社製のスコッチライト反射板、スコッチカルマーキングフィルムの日本総販売権をもって営業していた山王商事(株)を前身として、東京都中野区で住友スリーエム社の特約加工販売店「新山王商事(株)」としてスタート、平成8年の創業30周年を機に現在の社名となった。  
テドラーフィルム(自社開発商品)
 当社の商品群・加工技術はアメリカボーイング社をはじめとする世界の航空業界に、またJR車輛工場の他、鉄道車輛メーカー各社や多くの企業に採用されている。 また、プロダクト製品として、耐有機溶剤性に優れた米デュポン社のフッ素フィルムに特殊糊を塗工、燃焼テストにおいても有害ガスが発生しない「テドラーフィルム」、切断や熱、対有機溶剤性に優れた「アルミ(金属)専用インク」、歩行者に耐えられるだけの強度が必要とされる「滑り止めステッカー」など、他者では取り扱うことの難しい特殊印刷ラベル・マーキング製品の開発に、日々取り組んでいる。  


アルミ(金属)専用インク



コスト削減で“納期短縮”


電車内外の様々な「サイン」として活用されている

  「リーマンショックの影響は正直大きかったですね。我々の会社は創業以来40数年、社員の皆に支えられてここまできた会社です。印刷のオペレーターは誰でも直ぐに出来るものではなく、一人前と言われるまでには最低数年間は必要なので、仕事が戻ってきた時のことも考えると、『人員削減』という選択肢は考えられませんでした。


 徹底したコスト削減を実践するため、中野区にあった本社を八王子工場に移転統合しました。しかしその結果、製造部門と販売部門が一体化し、部署間のコミュニケーションが良くなって納期が短縮するという効果が生まれ、お客様からお褒めの言葉をいただけました」

 華やかな仕事のイメージとは裏腹に、当社にも景気の荒波は容赦なく訪れる。しかしどのような状況下でも「社員」を第一に考える田中社長の経営ポリシーは徹底されている。



全社一丸の“新卒採用”

 社員は現在44名。来春には新卒3名の若い力が新たな仲間として加わる。「これまで新卒採用にはあまり積極的ではありませんでした。ある知り合いから『新たな人材を採用するという目的は当然だが、むしろ“採用活動”そのものの過程の中で、会社が一丸となれる』という助言がありました。 実際、就職希望の学生に対する面談の段取りや応対、工場見学会などを、私が指示するのではなく、現場のリーダーやマネージャーを中心に社員一丸となって取り組んでくれまして。これは私の想像をはるかに上回ることでした」  


社内人材をHPで紹介


 採用活動の最中では、一緒に食事をしたり、社長や社員の肩書を外し、人対人として腹を割って接することを心掛けたそうで、最終的に3名から「是非御社で働きたい」という返事をもらった時には涙が出る程嬉しかった、と田中社長は語る。

「学生の潜在能力を引き出してあげるのが私の役目です。潜在能力は、単純に学歴だけでは測れません。むしろ、誰もが可能性を持っている。私は常に彼らの『触媒』であり続けたいと思っています」

 今回の取材で事務所に訪問した際、対応いただいた社員の皆様の元気な挨拶と笑顔。日頃、田中社長がどのようなメッセージを社員に発信しているのか窺える。



社員の“ブランド化”


超高精度「大型抜き加工」

   特殊印刷業界は、正に「装置産業」。特に最近はデジタル化の波が押し寄せ、新たな印刷機械が次々と市場に投入される。新型設備の導入は「先行者利益」の獲得に一定期間は寄与するものの、昨今のスピード社会にあってはすぐに値崩れを起こし価格競争の波に晒される。 「同じお客様に別の商材を売っていくのか、あるいは今ある技術を他の領域に活かしていくのか。これからの事業戦略の立て方はとても難しいですね。 具体的な計画にはなっていませんが、今後「海外」も視野に入れていきたいです。特にベトナムなどの新興国に興味があります。いずれにしても新しい付加価値をどのようにつけて差別化していくか。そういう意味では、同業ネットワークではなく、新たな発想と経験を持つ『異業種企業』との連携が今度益々重要になってくる気がします。

 当社のホームページでは、これから社員一人一人にスポットを当て、いずれ全社員を掲載する予定です。中小企業は正に『人』。経営は『人』で成り立っている。人のブランディングは重要な事業戦略です」

田中社長と話をしていると、とにかく「社員」への愛情が滲み出てくる。淡々とお話を続ける田中社長の気さくさと、常に社長を取り巻く人々と同じ目線に立ったあけすけな人柄が、更にファンを増やし、人望と信頼を獲得していくことだろう。




編集後記

「働き盛り」と言われる四十代。バイタリティ溢れる田中社長と会社を支える四十名の社員。ニッチで専門性の高い「特殊印刷」分野の先駆者である山王テクノアーツが、IT業界のプロフェッショナル、田中社長に事業承継者としての縁を得たことは、当社の今後の事業展開を考える上で非常に大きな強みであり力である。

「夢」とは言え、海外にも目を向けている田中社長。IT業界のリーディングカンパニーで活躍していただけあって視野もグローバルだ。当社の今後の展開に目が離せない。

 

(取材日2011年7月25日)