CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第85回 (株)フィットデザインシステム

『指静脈認証技術で世界をリード』

取材先(株)フィットデザインシステム(代表取締役社長 笠原英世氏)
所在地 八王子市楢原町1481-4
電話 04-2951-5166
代表取締役社長 笠原英世さん
皆さんは、「生体認証」という言葉を、聞いたことはあるでしょうか?
生体認証とは、指紋や声、顔の形、静脈など生物個体が持っている特性を利用した認証の仕組みのことで、身体の一部分を認証の材料として用いるため、パスワードのように忘れたり、なりすましや盗難で勝手に利用される危険性が少ないことに特徴がある。近年、個人情報保護や情報セキュリティへの対応で市場規模が拡大しており、もともとは、犯罪捜査など限られた分野で利用されていた技術が、今では、銀行のATM、パソコンのログイン、入退室の管理、空港のセキュリティ、等さまざまな分野で応用されている。
特にセキュリティに関しては、個人情報漏えい等が、その企業存続そのものを危うくしてしまうケースも多い。情報漏えいが社会問題化しているこうした世の中にあっては、ますます生体認証が、本人を確認する手段としては非常に有効になっている現状がある。
今回は、生体認証の中でも、とりわけ高い技術力を要する「静脈認証」の技術を確立した、フィットデザインシステムの笠原社長にお話しをお伺いした。

56才からの創業

笠原社長が、現在の会社を創業したのは、8年前。もともとエンジニアとして電子回路の設計やコンピューターの製作などに携わっていた。当時新入社員として入社したころは、真空管、トランジスタが最先端の技術だった。その後も電気系のエンジニアとして数社を渡り、同僚とともに、一念発起し、会社を始めた。創業時の年齢は56歳。周りからは、遅すぎると散々いわれた。その笠原社長が最初に取り組んだのが、指紋認証による生体認証の機械であった。指紋認証に取り組んでいた笠原社長にとって、指紋認証を知れば知るほど、その精度や、偽造の容易さなどから、さらに高いセキュリティレベルの必要性を感じていた。そのことが、「指静脈認証」を手掛けるきっかけであるという。
真から技術好きの人材が集結し、常に最新の技術を追及している

そして指静脈認証技術への挑戦

指静脈認証機 そもそも「静脈」といえば、人間の血液である。動脈が心臓から送り出される血液に対して、静脈は体を循環して心臓に帰っていく血液の流れである。なぜそれが生体認証に利用されるのだろうか。それは、静脈は体の中の情報であり、他人になりすますことはまず困難である。また、静脈は動脈に比べ皮膚に近いところを流れており、光を当てた時に静脈の形が透きとおることからその映し出された形を画像として利用しやすい。さらに大事なのは、静脈の流れのパターンが人それぞれに細かく違い、それを数値化して登録しておくことで、本人を照合でき、その精度は、指紋認証に比べはるかに高いという。笠原社長の話では、静脈の画像を数値化する技術は大変高度な数値変換技術を用いており、当社でも、数学の博士号を持つ優秀なエンジニアの腕のみせどころだという。さらに加えて指紋認証のように、指紋をコピーされる等の偽造行為に対して、静脈認証技術では、血流だけに偽造が難しいという。指紋以外にも、瞳をつかった虹彩認証、顔のかたちで判別する顔認証など生体認証技術は他にもいくつか技術があるが、設置にかかるコスト、認証までの時間、精度の高さなどの要素を考えると、今現在、指静脈認証が一歩リードしているようだ。

指静脈認証センサーに指をかざして認証される

100年に一度の大不況

確固たる技術を確立した笠原社長のところへも、100年に1度と言われたリーマンショックに伴う景気の変動は、容赦なく会社を直撃した。「我々はセキュリティ関連の業種であり、景気が落ち込むとどうしても、企業の投資的な経費は後回しになってしまい、わが社への注文が落ち込んでしまう」と語る。世の中の景気の落ち込みに連動するようにわが社の売上も前年対比を大きく割り込み、一時は会社もいずれなくなってしまうのでは、と創業以来の大きなピンチに陥った。高い技術力をこうした不況や生産縮小の時期にどうやって活かしていくのか。笠原社長にとっても日本のものづくりにとっても大きな問題である。はたして笠原社長はどこにビジネスの活路を見出したのだろうか? 指静脈認証鍵管理ボックス

キーワードは「アライアンス」

笠原社長に、今後の展望を語っていただいた。わが社は大会社ではないので、人手のかかる設置業務、メンテナンス業務がどうしても弱い。またブランド力もほとんどない。逆にわが社の強みは何と言っても大企業にも引けをとらない優秀な技術者集団をかかえていることにある。不況のもと、自社の強い所、弱い所が何かを徹底して考えてきた。そこで、何とかして自社の高い技術と現場の製品、サービスとを結び付けたいという思いもあり、大手とのアライアンス(連携)にここ最近力をいれている。大手と手を組むことで、大手の販売力と自社の技術力を背景に、入退室管理のシステムを積極的に販売展開できるようになった。昨年の入退室の認証機の国内占有率は約11%で、今年のシェアは倍増するだろうと意気込む。また、指静脈認証技術にも、まだまだ課題は山積みであるという。人間の身体を対象としている以上、寒い時の血管の収縮、けがをした時、成長したりなど、生体認証ならではの悩ましい問題も多いという。
一方で、当社の技術は評価され、多摩信用金庫の多摩ブルー賞「技術・製品部門」で優秀賞を受賞。また地方の国立大学と連携して、大学内の入退室管理に当社の指静脈認証システムが採用された例もあるという。
今後も、笠原社長の先端技術への挑戦は、果てしなく続く。
製品は、東京都のトライアル発注の認定商品にも指定された
編集後記
笠原社長のお話をうかがい、静脈認証という技術は、技術者集団の知恵の結晶であると感じた。人同士が向き合えば、簡単に分かる認証技術も、機械対人となると本人が本人であると証明することは、思いのほか難しく感じられたのも事実である。
今後も、世の中を便利にする情報機器が増える中で、より高いセキュリティ技術も両立させていかなくては、ならないことも痛感した。彼らのような技術者集団が、日本発の技術として日本にとどまらずグローバルな世界で活躍できることを今後もぜひ期待したい。
(取材日2010年12月7日)