CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第81回 (株)ミラック光学

知財を活かし、グローバル・スタンダードを目指す

取材先 (株)ミラック光学(代表取締役 村松洋明)

所在地 八王子市松木34-24

電話 042-679-3825

e-mail info@miruc.co.jp

URL http://www.miruc.co.jp

代表取締役 村松洋明さん
 

 今回は、昭和38年、工業用の「双眼顕微鏡」メーカーから独立した創業者である父の後を継ぎ、顕微鏡製造で培ったコア技術を水平展開しながら、多彩な製品を開発し続ける (株)ミラック光学の村松社長を訪問し、これまでの道のりと経営方針等について話を伺った。

 

 

“捲土重来を期す”

 「大学は政治経済学部の出身で、最初に就職したのは不動産業界でした。自身、全くの“文系人間”なんです。
 就職して間もない頃に父が大病しまして、18年前、当社に入りました。父が築き上げてきた基盤がありましたし、元々、独立心もありましたので、これを機会に一旗あげてやろうと」
 村松社長、当時まだ23歳。工場は東京・杉並区にあった。父であり創業者の雷太郎さんは、中堅メーカーからのスピンオフ創業。「前職と同じことはしない」という信念の元、観察像が測定物と上下左右の向き、移動方向が全て一致する「正立正像式」の単眼顕微鏡を開発するなど、出身企業への義理を重んじながら、技術者としての創意工夫を凝らした商品を開発し、地道に業績を上げた。

自宅の一階が「工場」ということもあり、幼い頃からそんな父の背を見て育った村松社長。後を継ぐのに抵抗はなかったが、まだ社会経験も少なく経営のイロハも分からず、右往左往する毎日。

しかし、バブル崩壊の荒波が容赦なく当社を襲う。売り上げはピーク時の半分にまで落ち込み、取引金融機関からの支援も限界に達した。やむなく、杉並の自宅を引き払い、逃げるように八王子に移ってきたのが平成7年のこと。

 八王子市松木にある本社ビル

 

 故・小渕元総理の言葉を社訓に
  自分の作りたいものを作ろうとする技術者である父。「お客様が何を求めているのか」というマーケットニーズから製品を考える村松社長。時には激しくぶつかりあいながらも、“ものづくり”への情熱という点では思いは一緒、父子“二人三脚”で会社経営をしてきた。「当時は父と二人、本気で廃業を考えました。トラックに荷物を詰め込み、工場を後にした時の光景と悔しさは今でも忘れることができません」

この経験をバネに、新天地・八王子でもう一度ものづくりに賭けてみたい、村松社長は経営基盤を立て直しながら、精力的に取引先を回ってニーズを探り商品開発に没頭、コア技術を活かした顕微鏡部品のラインナップを次々と増やしていった。様々なセミナーにも参加し、専門書を読み耽った。気がついた時には、どん底の時期の4倍の売り上げにまで上昇していた。

 

 

世界の標準品を目指す「アリ溝式ステージ」

  アリ溝摺動(しゅうどう)ユニット

 

 現在、幅広く商品展開を図っているのが「アリ溝式ステージ」と言われる商品群だ。

「アリ溝」とは、元々木材加工の分野で使われている、溝底が「台形状」に広がっているもの。面接触のため耐荷重性に優れ、長いストロークを素早く移動させる用途に適しており、現場作業から装置組み込みまで使用頻度が多い位置決めに利用されるスライドユニットである。しっとり滑らかな摺動(しゅうどう)性能は、職人の手仕事による「すり合わせ技術」によって一台一台組み上げられており、「ゴリ・ムラ・キシミ」を排除した動きの感触は、職人技の結晶ともいえる。
「アリ溝式ステージ」は、発売以来飛躍的に販売台数を伸ばし、ラインナップを拡充している。

また精密作業現場での寸法測定や位置決め、品質管理に使用されている、従来からの主力商品である工具顕微鏡「メジャースコープ」も変わらず堅調だ。

そのほか、ある顧客の担当者から聞いたことをヒントに開発した「TVマクロレンズ」、半導体や電子部品、貴金属業界など、幅広い業種において威力を発揮、微細な手作業を高性能にサポートする真空ピンセット「ワンタッチエアーピット」など、多彩な商品を取りそろえている。

 コア技術の結晶「メジャースコープ」

 

 指先ワンタッチ「エアーピット」

 

 

 

日本のものづくりを守る「知財戦略」

 製品の付加価値向上と模倣品抑制のために、村松社長が積極的に取り組んでいるのが、複数の特許、商標、意匠などの知的財産権を多面的に活用した「知財ミックス」である。「ランニングコストもかかるので、何でもとればいいというものではありませんが、海外製品の模倣を水際で止められますし、お客様への信頼向上や取り扱う商社様の安心感にも繋がりますから」

会社の受付には額に入れられた特許や意匠登録証が所狭しと並ぶ。今年も、新たな商品開発に向けて更に申請を強化するそうだ。「多摩地区には都のシリコンバレー構想がありますが、是非産業活性化と合わせて、日本の『知財集積地』にしていきたいですね」

「知財戦略」が、今後の日本のものづくりを守る上でも重要であることを、村松社長は十分認識している。
  取得済みの特許や意匠登録証の数々

 

 また、大半の商品のアイデアは、社長自らの発想ということだ。発想のヒントを聞いてみた。「常に“考えている”ことですね。枕元には、必ずメモ帳を置いておくんです。アイデアは眠る直前や入浴時にひらめくことが多いですから。先日は、4歳の息子が買ってきたトラックのおもちゃからヒントをもらいました。単純ですが、その仕組みを見まして、なるほど、と。これは今度の新商品に取り入れるつもりです。また、何気なくマンションのチラシを見ていたら、“あること”が解説されていまして、そこからもいただきました。どれも特許出願中です。メジャースコープを中心に、弊社の製品はどういう過酷な環境で使用されるか分かりませんから」

社長は、寝ても覚めても会社と社員の未来を考え、新商品、新サービスを考えている。“社内で一番のアイデアマンは社長である”と誰かが言っていたが、正に実感する話である。

 

「メイド・イン・ジャパン」の誇りを

 「元気なモノ作り中小企業300社」表彰式

 

 ミラック光学の製品や経営は、国や都、地域の金融機関からも評価されている。
「2009年元気なモノ作り中小企業300社』」(経済産業省)、経営革新計画承認(東京都)、第6回「多摩ブルー・グリーン賞」奨励賞など。知財戦略同様、会社の信頼と付加価値を高める「無形財産」だ。  「多くの商品開発をしておりますが、全ては父が長年培ってきた顕微鏡に関するコア技術に繋がるものばかりです。そして、どれも品質・精度・耐久性を追求し、その商品価値に見合った価格よりも安価にご提供をする。海外生産品の安さに飛びつくのではなく、そういうモノの本質、こだわりを是非見極めて頂きたい。だから、オンリーワンやニッチに命を賭けています。
 最後の1ミクロンの精度を出すのは、機械ではなく人の手。正に“職人技”の部分です。諸外国にも誇れる日本のものづくりの強みは、この熟練した技の緻密さだと思います。『メイド・イン・ジャパン』のクオリティを世界にアピールするため、国のご支援も賜りながら『日の丸』を背負う覚悟で経営をしています」という村松社長。淡々と、静かに物語る口調の裏には、企業経営に対する強い理念が伺える。

3年前、創業者であり父の雷太郎さんは他界された。「現在の新しい社屋、そして国から表彰していただいたことを、生きているうちに見せてあげることができなかったのが何よりの後悔」と感慨深く語る村松社長。しかし先代の築き上げた「ミラック光学」の経営哲学は、今もしっかりと後継者に受け継がれている。

 
編集後記
 村松社長とは昨年開催された東京都主催「産業交流展2009」出展ブースで初めてお目にかかった。業種柄、筋金入りの“理系技術者”と勝手に決めてかかっていたが、「文系出身」と聞いて非常に驚いた。
 確かに実際に話をしてみると、技術者が陥りやすい「プロダクト・イン」的発想ではなく、あくまでも顧客のニーズを徹底して商品に活かしていく「マーケット・イン」の考え方であったり、知財への取り組みや財務面への気配りなど、「なるほど」と頷ける面が多々あった。

「理系人間」「文系人間」と過去の専攻科目で人を判断するのは良くないかもしれないが、当社を見ていると、創業者、後継者がそれぞれの足りない部分を相互に補う、絶妙な“経営バランス”が現在の会社発展に繋がったように思えてならない。

 リーマンショック以降の景気低迷に、いつまでも手をこまねいているわけにはいかない。こんな時期だからこそ開発を強化し、そのための新たな人材確保も視野に入れる。八王子には、こうした気概ある“熱い”若手経営者がまだいるということに、内心ほっとした。
(取材日2010年2月12日)