CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第74回 多摩冶金工業(株)

多様な形状部品を高精度・高品質で提供する粉末治金メーカー

取材先 多摩冶金工業(株)(代表取締役 澤田 正)

所在地 八王子市川口町3769

電話 042-654-4454

e-mail info@tamayakin.com

URL http://tamayakin.com/

代表取締役 澤田 正さん

 金属部品を加工するにはいくつかの加工法が存在する。鋳造法、鍛造法、機械加工法、金属プレス加工法、そして粉末冶金法(ふんまつやきん)である。その中でも、粉末冶金法は、他の製造法では得られない独特の性質を持った材料や製品を作ることができる。

 日本の粉末冶金技術は戦後から本格的に出発した。この技術は数々の試行錯誤を繰り返し、今ではなくてはならない要素技術として、自動車部品やOA機器部品へと応用されている。

 技術的に開発途上にある戦後から研究開発を続け、現在では高精度かつ高品質な部品をユーザーへ提供している企業がある。川口町に製造工場を持つ多摩冶金工業株式会社である。今回は代表取締役社長 澤田正(さわだ ただし)さんにお話を伺った。

 

 

粉末冶金一筋50年!!

 多摩冶金工業は、創業者澤田さんが昭和43年に創業した歴史ある会社である。

澤田さんは福島県いわき市の出身。大学入学を期に上京し、大学を卒業すると粉末冶金の技術設計関係に従事し働くようになった。しかし、12、3年勤めた会社が不運にも倒産してしまった。

そこで、粉末冶金の将来性を見越して、これまで培ってきた技術力と自分への挑戦とばかりに38歳の若さで自ら創業したのである。しかしながら、当時の粉末冶金の技術は発展途上の段階で、期待する精度がなかなか出せる域に達しておらず、前途多難な時代であった。

澤田さんは、休日もなく日中は製造に注力し、夜寝る間も惜しんで納品と研究開発を続ける毎日であった。当初は、知り合いから仕事を請けながら操業を続けてきたが、ある時先輩の伝で事務機や家電製品の部品を受注することができた。この事がきっかけとなり、今ではこれらに加えて自動車メーカーなど100社を超える取引先を持つまでに至っている。

成型された原料が金型に入れられ焼結炉に入る。

 

 

様々なメリットがある“粉末冶金”技術とは?

金属粉末。多くの種類があり、

その用途に応じてブレンドされる。

 

 多摩冶金工業は、粉末冶金をコア技術とし、自動車、家電、事務機などの部品を製造している。粉末冶金とは、原料となる金属(鉄・銅・ニッケル・タングステン・モリブデン等)の粉末を添加物と混合し、成型された型に入れて固め、それを焼いて精度の高い部品を大量に作ることができる技術である。同社では、多摩地域発の合金製品(多摩-Alloy(合金))として“タマロイ”という独自ブランドで製造販売をしている。
この技術の特徴は、(1)高精度かつ複雑形状の製品が製造可能、(2)多品種にわたる金属系粉末の特徴を活かした新たな複合材料の可能性、(3)多孔質の持つ特性、(4)製造コストが安価でありながら優れた環境性などが挙げられる。 特に(3)多孔質の持つ特性に着目したい。多孔質とは、無数の微細な孔(穴)がある性質を言い、スポンジを思い出してもらうと分かり易い。

何故、多孔質となるのか?それは、粉末冶金の製造過程によるもの。金属の粉末に添加剤を加え、プレスで押し固め、焼き上げるという過程の中で、添加剤が飛ばされることで、金属粉の間に隙間ができる。この隙間に潤滑油を浸み込ませると「含油軸受」となり、この軸が回転を始めると自動的に潤滑油が摺動面に油がしみ出し、軸が停止すると再び気孔の中に油が吸収される。結果、油を補給すること無く潤滑性を保つことが出来るのだ。そのため家電や事務機のモーター(回転部品)など長期使用する機器の軸受として幅広く利用されている。

混合機。必要量の金属粉末が時間を

かけて混合される。

 

  

 

金型の設計ノウハウが“肝”!

 澤田さんは「粉末冶金で最も重要な要素は金型製造技術。とりわけ金型の設計ノウハウが“肝”なんです。」という。それは、粉末冶金の工程で熱、圧力など様々な外力が働くため、通常の金型に比べ、強度、寸法、表現仕上げなどの条件が極めて厳しいためである。かつて、金型製造技術が追いつかず、粉末冶金はローテク、公差が出せないなどのイメージがつきまとった。今では放電加工機など加工機の精度が向上し、精度の高い金型製造が可能となり、公差0.04mmに対応するほどの精密部品加工が可能である。

複雑な形状部品も精度良く仕上げられている。

 

 特に、同社では金型設計に相当のノウハウを持っており、圧縮時、焼成時の金属の歪みを計算に入れ、精度の高い金型を設計することが出来るのである。結果、軸受に留まらず、ギヤ、プーリーといった機械部品、超硬材など幅広く対応することが出来るのである。

 

創業者のチャレンジ精神が生んだノウハウと技術継承の術

従業員一人ひとりが丁寧に作業に取り組む。

 

 製造現場は機械設備が整然と並べられ、実によく整理整頓されている。その中で正社員・パートを含めベテラン従業員の方も多く見かけられた。焼結炉などは全自動になっているものの、他の工程は全て人の手が入っている。澤田さんは「ものづくりは機械設備だけでは出来ない技術があるのです。それは経験と実績に基づいたノウハウです。私はこれまで自身で蓄えたノウハウを専務(ご子息)をはじめ従業員にも教えています。」と隠すことなく明かした。同社では既に技術継承が進み、澤田さんがいなくてもスムーズなものづくりが出来る体制が整っているという。
この技術継承されたノウハウは、これまで難しい案件でも澤田さんの脳裏に「出来そうだ」と浮かんだら、五分五分でも発展性が見込めるものにチャレンジしてきた技術の積み重ねである。
 日本の粉末冶金産業の規模は135事業所(工業統計表2004より)となっている。その中で多摩地区には同業種は見当たらない。これまでいくつもの同業種が存在したが、今日まで多摩地区に同社が生き残ることが出来たのも、そうしたノウハウの蓄積と最後まで諦めない情熱、そして従業員への教育が活かされてきた証なのかもしれない。

 

 

経営ポリシーは“自分の会社の景気は自分で作れ”

澤田さんは、確固たる経営ポリシーを創業時から貫いてきた。澤田さんは「中小企業の繁栄は、従業員一人ひとりの努力があってこそ約束されるもの。常日頃から従業員には一任された仕事は最後まで投げ出さない。責任転嫁はしない。と言い聞かせています。私は“自分の会社の景気は自分で作れ”を信条に、今後も従業員とともに頑張っていきます。」と胸を張った。粉末冶金技術のみならず、この澤田さんの経営ポリシーが、社員一人一人に浸透し、多摩唯一の粉末冶金メーカーとして益々の発展を期待したい。

 
編集後記
 粉末冶金技術によって生まれてくる製品の種類を知って驚かされる。自動車のエンジン部品をはじめ、冷蔵庫、扇風機、エアコンなど列挙すればきりがないほど色々なところで使われている重要な部品ばかりである。日本の粉末冶金は、世界の中で技術的にかなり高い位置にあるという。これに関するエピソードがある。あるメーカーが製造ラインを東南アジアに持っていくこととなった。一度は現地の企業に粉末冶金で部品製造を頼んだものの、要求した精度が出せず、結局当社に戻って来たとのこと。まだまだ、日本企業の技術力は健在である。今後、この技術を更に応用して、あらゆる要素部品に付加価値をつけ、飛躍していく可能性のある楽しみな分野であることを知った。

粉末冶金の製造現場では、想像とは反して騒音も少なく、焼却炉は電気炉を使用しているため煙もない。文中にも示したが、工場内はとても整理されていて、従業員がとても気持ちよく働ける環境が整っていることに驚く。ここにも澤田さんの従業員への教育と心遣いが伝わってくる。

澤田さんの“自分の会社の景気は自分で作れ”という言葉が心に残るとても印象深い取材であった。

(取材日2007年3月20日)