CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第59回 (株)エイビット

次世代に挑むワイヤレス通信のパイオニア!

取材先 (株)エイビット(代表取締役 檜山 竹生)

所在地 八王子市南町3-10

電話 042-627-1900

e-mail information@abit.co.jp

URL www.abit.co.jp/

代表取締役 檜山竹生さん

「10年後の世の中の未来予想図がその通りの姿になっていく―― IT産業に携わる者の醍醐味です」。

 携帯電話やインターネットなど、急速なIT技術の進展によって、社会構造が劇的に変化している現在、「音声・通信・セキュリティ」をコア技術に、独自の次世代通信システムを開発し続ける(株)エイビット。

今回は、まだ「IT」という言葉のない時代、27歳の若さで起業した“八王子発ベンチャー”の草分け、檜山竹生(ひやまたけお)さんを訪問し、話を伺った。

 

 

小粒で辛い“技術屋集団”

創業は1985年。檜山さんの夢に共鳴した有志6名が脱サラし、都内から移転、現在の平岡町にて会社を立ち上げた。
 当時はパソコン黎明期と言われた時代。MSXの開発や、日本で初めての日本語マッキントッシュ(DynaMAC)はエイビットから生まれたもの。その後AXパソコン(DOS/V機)の日本語表示開発やPC開発を手がけてきたが、エイビットの嗅覚は常に次代のニーズを敏感に捕らえ、通信事業者向け交換機からIP電話、暗号化技術開発まで、対象をフレキシブルに拡大してきた。
 「88年にはインターネット、92年にはホームページを立ち上げていました。八王子では一番早いのではないでしょうか。メールしようにも相手がいなくて(笑)」。

CDMAノイズ除去装置やエアプロトコルアナライザの開発(世界初)、LCR交換機、PHS携帯端末開発、携帯電話会社向けプリペイドシステム開発(日本初)と、後にスタンダードとなる製品の基礎を数多く生み出してきたエイビット。

 「高度な技術を、“空気のように”使えるようにすることこそ、技術屋の真骨頂だと思っています。企業規模を大きくすることよりも、“小粒でピリリと辛い”技術屋集団でいたいんです。好きなことが自由にできるでしょ?」と、檜山さんはあくまでも謙虚だ。しかしその瞳の奥には、世界の名だたる大企業と対等に渡り歩いてきた“ピリ辛”集団リーダーとしての自信と自負がみなぎっている。

これまでに手がけた携帯電話の数々。エイビットの歴史は携帯電話の歴史そのものでもある。

1996年に発売された、ヒューレット・パッカードとの共同開発によるエアプロトコルアナライザー。HP社が、製品に他社のブランドマークを許可するのは、極めてレアケースなのだ。

 

 

ベンチャーの街・八王子

平岡町にあるエイビット本社。「次世代通信研究所」(散田町)、三鷹・横浜事業所の他、アメリカ、香港、台湾等海外にも拠点を持つ。

八王子で創業した理由を聞いてみた。「一番は通勤時間の問題がありました。特にベンチャーで働く若者はあまり寝ません。最小の睡眠時間で仕事をこなすことを考えると、職住近接は必須条件です。都心と比べればコストは安いし、電車、自動車でいつでも都心に出かけられる。お店だって沢山あるし、自然にも恵まれている。大企業を卒業された優秀なエンジニアの方もいれば若い感性もある。 ここはクオリティー・オブ・ライフ(QOL)を追求するのにとてもいい環境なんです」
家庭で何かあっても、すぐに飛んで帰れる職場。生活も仕事も遊びも全てが一箇所で満足できる、それが『八王子』とのこと。 「伝統の織物産業も皆さんベンチャーでスタートされていて、また起業家を支援する方々もたくさんおられた。元々八王子には、起業家を育てる風土があるんです。 正にベンチャーにはうってつけの場所じゃないですか。
ITは時間と距離を限りなくゼロに近づけるチャレンジでもあります。別に都心にこだわる必要なんてありません。家庭円満、生活と仕事がうまく調和してこそ、従業員の仕事効率もあがる。この仕事は、インスピレーションが大切な要素ですが、知覚や触覚などの五感が満たされて、初めて“第六感”が働くんです」

元気がない、活気がない、と言われる八王子。前向きな檜山さんの話を聞いていると、わが街を改めて誇らしく思うと同時に、知らない間に、八王子の「悪い面」ばかりを見ようとしていた自身がとても恥ずかしくなる。

創業時からエイビットを支える平井マネージャー(中央)と広報担当の橋本さん(左)。女性の積極的な採用、また従業員の資格取得やキャリアアップには支援を惜しまない。

 

 

エネルギーの源は“好奇心!”

「小さい頃から、機械をバラしてみるのが大好きでしたね。『2001年宇宙の旅』を見ては、宇宙や未来都市に心躍らせて。視野を宇宙まで広げれば、つくづく自分は『地球人なんだなあ』と思います。そうなると、日本とか海外とかの分け隔ては必然的になくなってしまいますよね」
 企業の大小ではなく、あくまでもその技術、製品で勝負できるところが海外に出る醍醐味、と檜山さん。
 「全ては好奇心なんです。子供の『科学離れ』が言われていますが、現代は“好奇心”を煽る教育をしていない。物を壊したり、機械を分解すれば叱られる。子供たちが『これは一体何?』と思ったことにとことん付き合ってあげられる大人がいない。教師はもとより技術者でさえもマニュアル化し、サラリーマン化しているんです。
 いやいや学校へ通っている普通の学生より、ドロップアウトしたり、社会にうまくコミットできない、少しトンガリ気味の若者の方がこの仕事には向いているのかもしれない。
 自分の次の仕事は、少年少女たちが好奇心の赴くままに、自由に夢を描く力を身につけさせてあげることだと思っています」

将来のものづくりを担う若者の話には、檜山さんの口調にも熱がこもる。

仕事風景。黙々と作業をする技術者たちの「気」が伝わってくる。ここから、世界に誇るエイビットの「オンリーワンプロダクト」が生み出される。

主力商品の一つ、GSMエアプロトコルアナライザー「AP5000」。GSMネットワークとWCDMAネットワーク間ハンドオーバプロトコルを解析するためのGSMプロトコルアナライザー。

 

『八王子サイバーガーディアンプロジェクト』

高尾山のライブ中継画面。災害時に本領を発揮する無線通信技術だが、平時にはこうした観光資源のPRにも活用できる。

檜山さんは当協議会の運営委員はもとより、様々な地域の産業振興活動に参加し、連携事業を展開している。
その一つ「八王子サイバーガーディアンプロジェクト」は、災害に強い高速無線ネットワークを自治体の災害時対策に提供しようという試みだ。
先般、高尾山の紅葉をインターネット中継するという実験を行い、一ヶ月で4万件を超えるアクセスを集め話題となった。 「八王子市と高尾登山電鉄の皆様に協力いただきまして、高尾山に高性能CCDカメラを設置し、市役所を中継点に弊社までの約8kmを小電力無線LANで接続しています。
最初に繋がった瞬間、ライブカメラで日の出を見た瞬間、そして、大変多くの皆様にご覧いただけたことが何より嬉しかったですね。次はサル園が中継できればと考えているのですが、サルのプライバシーの問題がありまして(笑)」
 「昨今、子供やお年寄りをターゲットにした卑劣な犯罪が増えています。将来は、PHSチップによるアドホック通信を利用して、市民の皆様の安全確保や現在のインフラに変わる災害に強い無線通信ネットワークの構築ができればと考えています」
当プロジェクトの一環として、社員を市内の大学に派遣し、学術連携も進めているという。正に民主導による「産学官連携」プロジェクトだ。

ワイヤレスブロードバンドを活用した新しい“防災モデル”の構築――八王子に“守護神”が降り立つ日も、そう遠くない。

 
編集後記
■来年で創立20周年を迎えるエイビット。それでも檜山さんはまだ40代の若さだ。羨ましい限りのバイタリティ。そのエネルギーの源は、と聞いても「好きなことをしてるだけですよ」とさらりとかわす。
 全てが順風満帆だったわけではない。ベンチャーにはつきものの資金調達の問題には何度も頭を悩ませた。「何を『苦労したこと』に挙げてよいのか分からないくらい、毎日がトラブルの連続でした」。そんな苦労をおくびにも見せないところに、檜山さんの男気を感じる。

経験も実績もない創業当時、同じく独立したばかりの大手通信会社に営業にいった時のこと。「うちだってベンチャーだ。なぜ取引先にベンチャーを選んではいけないのか」。周りの全ての取締役が反対する中でエイビットを採用してくれた当時の社長の英断を、今でも忘れられないという。

ベンチャーであるがゆえに、ベンチャーの苦労がよくわかる。檜山さんは起業家との連携や育成にも積極的に取り組んでいる。市内に芽吹く起業家たちのアドバイザーとして、今後もますます活動の場は広がりそうだ。

(取材日2004年12月15日)