CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第78回 月井精密(株)

モノづくり技術を果敢に追求!20歳で事業承継した若き社長!

取材先 月井精密(株)(代表取締役 名取 磨一)

所在地 東京都八王子市大塚637

電話 042-677-8461

e-mail sales@tsinc.jp

URL www.tsinc.jp

代表取締役 名取磨一さん
 

月井精密(株)は金属や樹脂などの精密加工を得意とした機械部品メーカーである。職人の持つ昔ながらの技術を若い世代が継承し、最新のIT技術と組み合わせることで、5軸マシニングセンターなどの最先端工作機械を駆使し、人工衛星の通信装置や航空機のエンジン部品を供給している。今回は弱冠25歳にして、匠みの技術を果敢に追及するに名取社長に話を伺った。

 

 

祖父から受け継いだ技術

 小さい頃から工場を訪れ、「ものづくりには興味あった」という名取社長。月井精密は母方の祖父が始めた工場であったが、名取社長の父親は大学教授。都内の高校を卒業後、「この技術は自分が守らなければ」という思いから、18歳で祖父が1人で切り盛りする「月井精密」に入社した。たった2人だけの会社で最初は何も分からなかったが、入社して2年間、祖父から汎用旋盤の扱い方、刃物の使い方を徹底的に教え込まれた。そこで学んだことは、「金属を感じとる」ということ。人間は視覚、つまり目からの情報に頼りがちだが、金属は「音、匂い、感覚」を感じとるのが重要であるということだった。その時に積み重ねた“野生的カン”が、今では大変役に立っているという。
 今でも、現場の第一線で活躍する祖父の月井会長

 

 月井精密の社長に就任したのが2004年、ちょうど二十歳の時だった。「これからは技術力だけでは生き残れない。作る技術はある。アイデアや設計能力を伸ばしていけば、必ず大きくなる」。そのような思いで、彼は会社を継いだ。
 

 

最新のIT技術と5軸のマシニングセンター

 3DのCADデータを作成するコンピューター

 

事業承継をしてから、積極的に設備投資を行ってきた。その背景には、コンピューターに任せられるところは任せ、人間でしかできないところに集中してマンパワーを注ぐことを基本としたからだ。一昔前は、スーパーコンピューターでしか行えなかった複雑な3D計算が、今は手元のノートパソコンで行える。とはいえ、中にはハイスペックのコンピューターでも丸2日間計算し続けることもある。パソコンで作成したCADデータを直接機械に転送して加工することが可能となり、現在は、5軸加工機を含む数台のマシニングセンターが稼動し、ミクロン単位の切削も正確に行っていくことができる。

 

 

若さゆえの苦労

名取社長は、現在25歳。社長としては圧倒的に若い。20代ということで、最初は社長として相手にされなかったことも多かったと語る。しかし「若いことはメリットであり強みである」とも。取引先に訪問した時に気軽に「工場見学」をさせてもらえたり、取引先から仕事を頼みやすい存在になって、試作開発の話がどんどん出てくるのだそうだ。つまり、社長の若さこそが、同社の営業活動の原動力となっている。現場の技術を徹底的に磨いた社長だからこそ、相手の会社とも話が早い。
  ミクロン単位で精密に加工された部品の数々

 

 

技術伝承のための取り組み

 金属を切削する刃物がズラリと並ぶ

 

社長だけではなく社員も20代が中心の月井精密。最先端技術を習得させるための工夫もしている。機械を扱う加工オペレーターは、CAD(モデリング)、CAM(加工パス作成)、刃物の選び方、測定具の使い方、治具の作り方など加工に関する幅広い知識が必要とされる。工場内には刃物だけでも1,200の数がある。その中から常に最適な物を選び出すために、加工方法、加工手順、工具データ、切削条件などオペレーターに必要な情報をカメラやビデオカメラなどを使って映像化、数値化をしてデータベースに記録し、社内ネットワーク上で一括管理し、いつでもどこでも加工ノウハウを閲覧、更新できる環境を整え、オペレーターごとの品質のばらつきを最小限に抑えている。こうした環境があるからこそ、若い社員でも、人工衛星やF1で使用する部品開発が可能となる。

 

 

「ものづくり」の将来像

 現在の世界的不況の中、主力とする自動車産業が大幅な落ち込みを見せ、少なからず当社の売上にも影響を及ぼしている。そうした中、名取社長は将来の見通しとして「航空宇宙事業」に期待を寄せている。無重力状態での化学実験など「実験環境としての宇宙」が、今後さらに重要になるのは間違いない。そこに当社の高い技術がより活かされていくとみている。製造業の面白味は、自動車で使っていた技術が、航空宇宙に応用できたりすることである。アイデア次第で、様々な分野に進出できる。

「機械さえあれば作れないものはない」というほど、技術は目覚しく進歩した。将来的には「作る」という技術は必要なくなり、最終的には、CADデータを作ることそのものが技術となり、設計やアイデアがないと生き残れない世の中になるだろうと、名取社長は最後にそう語った。

 人工衛星の通信機に使用される部品

 

 
編集後記
今回の取材を終えて、名取社長の技術にかける情熱、これからの製造業のあり方、社員に対しての考え方など、全てが「経営者・名取磨一」の顔で語られ、とても20代半ばとは思えないほど芯のしっかり通った男である、と感じた。こうした気概ある若者が日本のものづくりをリードしていけば、まだ未来は捨てたものではない、と実感できるインタビューであった。今後の活躍に是非期待したい。
(取材日2009年9月3日)