(株)ソキュアス バックナンバー

学生と社会のギャップを埋めることが自分の役目

取材先 (株)ソキュアス(代表取締役社長 川近充)

所在地 八王子市明神町4-7-15 落合ビル4階

電話 042-631-1422

e-mail info@socueus.com

URL www.socueus.com/

今から2年半ほど前の2000年7月26日、東京都立科学技術大学大学院 修士課程2年の学生が、(有)キャンパスライフという学生ベンチャーを立ち上げた。その学生は第一志望のコンサルティング会社の就職が決まっていたにもかかわらず、敢えて起業する道を選択したのだ。1年後その会社は組織変更で(株)ソキュアスとなり、現在は明神町にある都のインキュベーション施設「ベンチャーHACHIOJI」の一室にオフィスを構える。そして内定を蹴って起業した当時の学生が、代表取締役の川近 充(かわちか みつる)さんだ。今回はその川近さんと、大学時代の同期で現在取締役の青木 邦典(あおき くにひろ)さんを訪ね、学生ベンチャー立ち上げの秘話と今後の展開を語って頂いた。

 

 

中小企業の強い味方!インターネットを活用した営業支援サービス

小売り、製造を問わず、電子商取引機能を備えたウェブサイトの開設は、もはや中小事業者にも当たり前になりつつある。ところが、この手のウェブサイトを有効にランニングさせるには保守運用や営業活動が欠かせない。それにはIT要員や営業スタッフ、保守運用費の確保が必要となってくる。しかし、中小事業者にとってはこれらがかなりの負担となるのも事実だ。

このような事業者の強い味方になるのが、ソキュアスによるインターネットを活用した営業支援サービス「PFS(Private Finance Solution)」である。PFSは、電子商取引サイトの開発・保守運用はもちろん、営業活動を含む運営まで丸ごとソキュアスが請負うため、事業者はIT要員や設備,営業スタッフを用立てる必要がない。さらに保守運用費については粗利益分配方式を採用しており、システムの成果が粗利益として出ない限り事業者には一切保守運用費がかからない。つまり、事業者はシステム構築の初期費用のみ負担すれば後は自社の本来業務だけに集中することができ、成果に見合った報酬をソキュアスに支払うだけで良いのだ。

 「顧客の情報営業部門という重責を担う上に、自分たちの利益は自分たちによる顧客システムの運用にかかっている。必死にならざるを得ません」と川近さんは言う。顧客の一部門となってサービス提供していくPFSの事業モデルは実際の導入事例でも成果が上がってきており、徐々に評価されてきている。
 

 

なぜ学生ベンチャー?それは『学生と社会のギャップを埋める』ためだった!

ところで、川近さんはなぜ第一志望の内定を蹴ってまで起業したのだろうか・・・。「就職活動を通じて、学生と社会のギャップを痛感しました」と川近さんは語る。例えば一般的なインターンシップ制度のように学生の頃から企業で経験を積めるシステムが整っているアメリカでは、卒業後の学生は即戦力として期待される。ところが、このような実社会経験を積む機会を持たない日本の学生の場合、学生自身にも自分が「社会人」という自覚がなく、また社会も学生を社会人とは認めない風潮がある。こうした現状が、個々の学生の本質よりも学歴のような客観指標を重視して学生を選ぶという企業の採用態度にもつながっている。
 自らの就職活動を通じて「直感的に『社会と学生のギャップを埋めることは、自分のミッションなんだ』と感じた」川近さんは、「日本でも学生が社会に進出できる環境を整備し、社会と学生のギャップを埋めていくことが必要だ」と思い立つ。そして、大学の恩師や地元中小企業経営者の支援のもと、自分の“直感”を実行するためにソキュアスの前身である(有)キャンパスライフを立ち上げたのだった。

ところが、キャンパスライフには、「学生コンサルタント」を育成し、企業にとってのアウトソーシングと学生にとっての実践経験の研鑽を繋ぎ合わせる、という漠然としたビジネスモデルはあったものの、当面の仕事や収益見込みは全く無かったそうだ。「あの時は『情熱』と『勢い』だけで創業しました。今から思うと本当に無謀でした」と当時のことを振り返ながらも、「学生起業家として、在学中に起業すること自体に意味があったのです」と信念を語る。

 

 

予期せぬ失敗・・・。ビジネスモデルの再構築へ

創業後は、「学生コンサルタント」の事業化へ向けた準備を進める一方で、八王子の商店街サイト「八王子SHOW店街」や学生向けポータルサイト「キャンパスライフ」等の構築業務を通じてウェブシステム開発の経験も積んでいった。「大学院を修了し、会社も組織変更を遂げ、事業拡大に向けて夢中になっていました」と川近さんは語る。そして、自ら学生スタッフを活用して取り組んでいた「学生コンサルタント」事業は2002年4月には開始できる見込みまで立った。すべては順調に展開しているかに見えた。しかし、その影で大きなスキもできていた。学生スタッフの操作ミスが原因で、2002年1月に会社資産の6割を抹消するという大失敗を犯してしまったのである。

「事業拡大に気を取られていて足元の管理がルーズでした。学生の甘さが残っていたんでしょう・・・」と青木さんは当時のことを振り返る。連日の徹夜の復旧作業で何とかミスは挽回していったが、ソキュアスにとっては「学生を使うことの難しさ」と「社会経験の無さ」を痛感した出来事だった。

事件後、この教訓を活かして今までの事業展開を徹底的に見直し、今の自分たちにとっても今の日本にとっても「学生コンサルタント」事業は時期尚早と判断。学生の活用はしばらく見合わせ、自分たちだけで事業を軌道に乗せていく方向にソキュアスは大きく舵を切った。「一番必要なのは自分たちのレベルアップだったのです」と川近さんは言う。そして中小企業向けのウェブシステム開発を主要事業として位置付け、現在のPFSのビジネスモデルを確立してきたのである。

 

八王子に根ざした事業展開で『学生と社会のギャップ』を埋める!

もう1つ、現在、川近さんが事業化を目指しているものがある。実は、川近さんは人の知識資本力を定量的に表す手法を研究しており、先頃それをシステム化させた「知識評価システム」を完成させた(特許出願済)。これは企業の人事考課システム等にも応用が効くため、ソキュアスの新たな事業展開につながる。 さらにソキュアスとしては、同システムを活用して、学生の知識資本力を同システムで数値化させてネット上で公表し、企業が学生を選ぶ上でその数値を参考にできるようなスキーム構築を現在事業として考案中だという。まだ企業秘密段階だが、スキームのほんの一部を紹介すると、自己研鑽や企業からの需要に応じて学生の数値は変動し、企業は数値が高い学生をネット上で「NETS(地域通貨の単位であるLETSからヒントを得た)」という通貨で取引するのである。「足場が固まり次第再開する“本来目指していた事業”で活用していく」と川近さんの意欲は衰えを知らない。
 「縁があって八王子にオフィスを構えました。まずは地域に根ざした事業展開をしていきたい」と言う川近さんは「2年後には学生向けに、ビジネスの“実践経験”が教科書となる『商道師範学校』を立ち上げたい」と目標を語る。彼の念頭には常に社会と学生のギャップを埋める日本の将来像があるのだ。

 

 

 
編集後記
「学生ベンチャー」や「学生起業家」というとかなりカッコいい響きがある。ところが、学生は資金も無い、人脈も無い、経験も無い、実績も無いの「無い無いづくし」。人脈・経験とも豊富な、例えば大手企業のスピンアウト組によるベンチャー企業に比べると、大変な苦労を強いられる。特に川近さんが言うように学生と社会の間にギャップのある日本では、なおさらだ。

そんな「学生ベンチャー」のソキュアスは、人脈・経験が足りない分それを「努力」と「気合」で補うべく一生懸命頑張っている。その表れがソキュアスの主要事業であるPFSだ。本来ならばシステム屋の稼ぎどころになる保守運用費をあきらめ、敢えて実績に応じた「粗利益分配方式」を採用し、システムの運用リスクを自ら背負うことで顧客に格安のサービスを提供する。実績がない分、熱意と低価格をもって顧客へのインセンティブとしているのだ。「学生ベンチャー」はここまで厳しい局面に自らを追い込まなくては、マーケットへ切り込むことができない。

 川近さんと青木さんは毎日がそんな局面下に置かれており、プレッシャーの中創業以来1日も休まずシャカリキに働いている。そんな状況でも「毎日が楽しくて仕方がない」と堂々と言う二人こそ、実は本当にカッコいいのだ。
 ところで、ソキュアスは新事業としてモバイルコンテンツ分野へ進出しており、来年2月にau公式コンテンツとしてGPSを活用した画期的なモバイルコンテンツを公開する予定だ。ソキュアスの名前がブレイクする日も近い。
(取材日2002年10月9日)