フォトプレシジョン(株)バックナンバー

失敗を反映させられないやり方は非常に無駄が多い

取材先 フォトプレシジョン(株)(代表取締役 石井隆弘)

所在地 八王子市千人町2-7-5

電話 042-666-8211

e-mail webmaster@photopre.co.jp

URL www.photopre.co.jp/

JR西八王子駅から徒歩数分。閑静な風宅外の中にフォトプレシジョンは立地している。

JR西八王子駅近くの閑静な住宅街の中にあるフォトプレシジョン株式会社は、フォトファブリケーションという技術を中心として微細電子部品や光学部品の試作・開発を行っている会社である。かつては、デジタル時計から始まり、ゲームウォッチやCCDカメラを手がけ、現在はその技術の進歩と共に液晶ディスプレイやプラズマディスプレイといった製品の開発に携わっている。今回は、フォトプレシジョン(株)の成澤紀久也(なりさわ きくや)さんにお話を伺った。

 

 

依頼された仕事は、まず受ける!

フォトプレシジョンは、フォトファブリケーションを中心的な技術とする試作品開発メーカーだ。クライアントは、大手企業の研究所が多いとのことだが、試作品の依頼は、年間100社を数えるという。

”試作品”であるがゆえに、当然他の誰もがつくったことのない製品を開発することになる。それでも成澤さんは、「仕事を依頼されたら、まず受ける。そこからあれこれ試行錯誤するんです」と語る。

クライアントからある程度製造過程を示されることもあるが、理論のみが示され、それを具現化するという仕事も多い。そのためには、技術の”引き出し”を常に多く持っていなくてはならない。自ら技術革新すると同時に、クライアントからの想像を超えた多種多様な要請に応えながら、技術の多様化、高精密化、複合化を続けているのだ。

このあくなき技術革新と多様化を続ける中で培われた”引き出し”の多さが、フォトプレシジョンの最大の強みである。

 

 

“デジタル時計戦争!?“で試作品メーカーへシフト

今でこそ、フォトファブリケーションを基本とした多様な技術を武器に、多くの試作開発を手がけているが、試作品メーカーにシフトするには一つの転機があった。

フォトプレシジョンは、1980年に大田区に本社を構える洗足商事(株)から分離独立する形で創業した。当時は、デジタル時計が世を席巻していた時代。フォトプレシジョンは、デジタル時計を主力製品に独立した。

「当初から電卓戦争の二の舞にならないか、恐れていました」と成澤さんは当時を振り返るが、その不安は的中し、じきに”デジタル時計戦争”が始まった。デジタル時計の価格は見る見る下落し、当然業績も悪化したため40人いたパートさんを解雇せざるを得ない状況に追い込まれたという。

試作品メーカーへという業態転換は、そんな中で選ばれざるを得なかった生き残り策であった。「客先も全く変わってしまうので、相手の技術者との信頼関係を築くまでは時間がかかった」という社長の言葉どおり、直接売り込みに行ったり、商社を経由して自社の技術を売り込んだりと業態転換には苦労の連続だった。

しかし、その苦労の結果、現在では業務の90%が試作品というレベルにまで達している。もちろん、売り込みをすると同時に、様々な企業からの要求に応えるため、地道に技術を蓄積してきたゆえに現在のフォトプレシジョンがあることは言うまでもない。

 

 

多様な技術力を実現する秘訣は、ナレッジマネジメント

次々と、クライアントの要求を満たす試作品を開発するためには、技術屋としてのセンスが必要だ。成澤さんに技術者に必要なことを聞いてみると、「まず、どうしたら具体化できるかイメージし、そのための最短距離を考える」のだという。

様々な試行錯誤を重ねた上で、その”最短距離”を見出すわけだが、結果を出すまでには壁にぶつかることもある。そういうとき、担当技術者にはうまくいこうがいくまいが、必ず思考過程や使用したマテリアルなど克明にメモを取らせているという。そのメモは、データベース化され、社内で共有される。「失敗を反映させられないやり方は、非常に無駄が多い」という成澤さんオリジナルの発想に基づくナレッジマネジメントである。

  試作品メーカーとクライアントとの付き合いは、1回ごとに完結することが多い。しかし、担当技術者のノウハウがデータベース化されているので、多方面からの開発依頼に応えられる。フォトプレシジョンの引き出しはこういうナレッジマネジメントから生まれているのだ。社内におけるナレッジマネジメントのお手本といえるだろう。

 

技術の裾野を広げるために、産学連携に活路を見出す

フォトプレシジョンは、2002年6月に設立された、八王子市と近隣22大学による「八王子産学公連携機構」に参加している。その中で、工学院大学との産学共同研究プロジェクトが動き出した。しかし、企業と大学とでは求められるスピードが違うのも事実である。試作品メーカーともなれば、短ければ数日で製品を納めなければならないこともしばしばだ。 成澤さんは、大学との連携について「企業側が問題点を明確にし、基礎的な研究をお願いする」ことが望ましい姿だと語る。大学において、理論的に可能かどうか研究してもらい、それを製品化につなげる。こうして、フォトプレシジョンの技術力もさらに多様化、高度化を図っている。また、大学の研究室とつながりが持てたことで、研究室からの試作品開発依頼もあるという。こうした産業界と大学との技術交流によって、日本のものづくりの活性化に繋がっていくかもしれない。
  最後に、フォトプレシジョンが目指すものを成澤さんに聞いてみた。「あの会社に持ち込めば、なんとかしてくれると言われるような”ハイテクの便利屋”になりたいですね」と、会社の未来を見据えている。

 
編集後記
フォトプレシジョンの工場内を見学させていただいたが、製造現場とは少し趣が違っていた。どちらかというと、大学の研究室のような雰囲気で、薬品などの感光防止のために、窓には黄色いフィルターが付けられていた。また、社員一人一人が、ブースに区切られた中で顕微鏡に向かっている様子はまさにラボラトリーである。

一方、今回お話を伺った成澤社長は、研究者という雰囲気ではなく非常にやさしい印象をもった。写真が趣味とのことで、フォトプレシジョンのホームページにギャラリーを設け、四季折々の写真を掲載している。ホームページに立ち寄った際には、ぜひご覧になっていただきたいものだ。

(取材日2002年8月9日)