CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第69回 ネオアーク(株)

至高のレーザー技術が日本のメートル標準を作る!

取材先 ネオアーク(株)(代表取締役 阪江 修)

所在地 八王子市中野町2062-21

電話 042-627-7671

e-mail info@neoark.co.jp

URL www.neoark.co.jp/index.html

代表取締役 城 和彦さん

レーザー”という言葉から、皆さんは何を思い浮かべるだろうか・・・? その近未来的な響きから、子供の頃は「レーザービーム」ごっこで遊んだ方も多いのではないだろうか?

 レーザーが開発されたのが1953年。最近はDVDやCDのプレーヤー、各種精密加工、光通信、医療のレーザー治療等々で使われるようになり、わずか半世紀ほどで私たちの生活にもかなり密着するほど技術革新が進んできた。トランジスタ、高温超伝導物質と並んで、レーザーは“20世紀最大の発明”と言われている。

これからご紹介するネオアーク株式会社は、「レーザー技術への限りない挑戦」をモットーに新しい技術開発に挑んでいる会社である。同社はレーザーの性質・特長を掌握し、様々な分野に応用して、製品化をしている。今回は、代表取締役 城 和彦(じょう かずひこ)さんに、様々なお話をお聞きした。

 

 

現金主義からスタートした堅実な企業経営と人を第一に考えた企業経営

 ネオアークは1975年、“日本科学エンジニアリング”という社名で創業した。前身は府中にあった日本科学工業という企業。この企業は、1970年前後に当時国内では稀であったレーザー開発で優れた技術開発力を備えていたが、研究開発のための高い設備の先行投資が重く、一方で当時はレーザーのマーケットが未成熟であったことから投資分の回収が難しく、1973年のオイルショック時に倒産してしまったそうだ。

もともと城氏は同社でエンジニアとして働いていたが、倒産後の残務整理の中で、同社の技術的な優位性の高さから「十分復活が可能」と判断。そこで、1975年に城氏が社長となり、同社で働いていた7名と一緒に、日本科学エンジニアリングとして再スタートを切ったのだ。「日本科学工業が持っていたノウハウを、そのまま事業継承できたので運が良かった。」と城社長は言う。

城社長は前身の会社の反省を踏まえ、設備投資や事業展開についても背伸びをし過ぎることがないように、原則手元にある現金の範囲内で行う「現金主義」を徹底。元々前身の会社の取引先が、官庁・大学関係が多く安定していたことや、従前より、技術者の質が高かったことも功を奏し、創業以来景気の波にそれほど左右されることなく経営は右肩上がりに成長していった。

そして、2001年よりクライアントの要望から社名をもともと製品ブランド名として利用していた「ネオアーク(NEO ARK)」に変更。“NEO”には “新しい”という意味、“ARK”には “ノアの箱舟”という意味がある。まるで、社員全員は皆仲間であり、何があっても誰一人取り残すようなことはしない・・・・という社員に対する強い思いやりを表した社名ようだ。「『ノアの箱舟のように、もし嵐がきた場合には、みんなで一緒に逃げよう』と思っているんですよ」と城社長は笑顔で語ってくれた。

 

 

 

 

(上から)本社第一工場、最近増設した本社第二工場、本社第二工場LD製造部の様子

  

 

会社の躍進の第一歩  ~メートルのスタンダードを確立~

よう素安定化He-Neレーザ(波長6328nm・赤色)。この機器が日本の「メートル」原器製品となっているのだ!

 ネオアークが躍進するきっかけとなったのは、「メートル」という単位の普遍的な定義を具体化した「国際度量衡勧告準拠品」を開発したことにある。

そもそも我が国は、1889年以来「国際度量衡総会」にて各国に配布された白金とイリジウムの合金で作られた棒を原器として、「メートル」を定義としていた。ところが、「物」を基準とした定義では紛失・焼損の恐れがあることから、1983年の「国際度量衡総会」にて「光が1/299,792,458秒の間に真空中を進む行程の長さ(=2.5×10 のマイナス11乗)」という現在の定義が採用されたのだ。

それを受けて、工業技術院計量研究所(今の産総研)は我が国のスタンダードとなる原器の開発を始め、そのパートナーとして日本科学エンジニアリングに白羽の矢が立ったのだ。その時の様子を「当時は大手企業がそれほど参入しておらず、かつレーザーを開発している中小企業が当社くらいしかなかったから」と城社長は謙遜するが、それだけ日本科学エンジニアリングの技術が「国」からの信頼が高かったことの証だ。

 そして1995年に同社はその開発に見事成功し、現代の「メートル」の原器製品となる「よう素安定化He-Neレーザ」を世に出した。「10のマイナス11乗」という精度を実現した同社の製品は、国の研究機関はもちろん、多くの精密機器メーカーがこぞって採用。日本の「メートル」のスタンダードを作り上げた同社の名声はかなり高まったのだ。

 

 

ネオアークの製品 ~ 確かな技術力の証 ~

 「メートル」の原器開発の成功は以降のビジネスに確実につながり、事業は軌道に乗っていった。そして現在のネオアークは、レーザー光源の開発と、それを活用したシステム製品・装置の開発を行っている。技術的なノウハウの蓄積も豊富なため、完全な自社ブランドによる開発・製造も可能だ。

近年は工業計測から通信帯計測へと展開しており、より高い精度の製品開発を実現している。そんなネオアークの新製品は、産総研・東工大・電通大との共同研究で開発した「アセチレン安定化半導体レーザ」である。これは、アセチレンのもつ「レーザーの周波数を吸収する」という特長を活かし、光通信帯においてより高い精度基準を実現させた画期的なものである。

アセチレン安定化半導体レーザ(波長1540nm・赤外)。これが「第18回中小企業優秀新技術・新製品賞」の優秀賞を受賞したのだ。

 この製品は、2001年秋に行われた「国際度量衡総会」のメートル条約長さ諮問委員会において、光通信帯では初めて「メートル」を実現するレーザーのリストに承認された。ネオアークは再び“スタンダード”を確立させたのだ。そして本年3月には、同製品は「りそな中小企業振興財団」と「日刊工業新聞」が主催の「第18回中小企業優秀新技術・新製品賞」の優秀賞を見事受賞し、同社の技術開発力の高さを決定的なものにしている。

HPでも分かるが、ネオアークの製品群はものすごい数である。これら一つ一つがお客様のニーズに確実に応えてきた証であり、同社の確かな技術力を証明しているのだ。

 

ネオアークの目指す企業像 ~技術力・顧客・社員~

ラマンシフトレーザ(波長590nm)黄色のレーザを発する。

 これだけの技術力・開発力がありながら、城社長は決して浮かれない。「仕事はじっくり取り組むことが一番いい結果を出し、じっくり取り組むからこそ、お客様のニーズに応えられる。」と城社長。会社の規模拡大を必ずしも狙わず、あせらず、奢らず、あくまでもレーザーの革新を追いかけている。「会社を大きくするよりも、確実な技術を身に付けて地に足をつける」ことに主眼を置き、それを「ヨーロッパ型中小企業」と例える。

社員60名も城社長の考え方を踏襲しており、ネオアークで働く付加価値を「やりたいことがやれる環境にある」という点に見出しているようだ。その証拠に、一度大手企業に就職して「大手はやりたいことができない」ということを実感してネオアークに転職してきた人が多い。そして、社員の定着率は素晴らしく高いそうだ。「技術者はオールマイティである必要はない。一芸にさえ秀でていれば良いのです」と城社長は言う。

レーザーの開発に専念し、社員がじっくりと取り組ませる環境をつくることによって各々のモチベーションを上げ、それが個々の技術力向上につながる・・・。その結果、お客様のあらゆるニーズに対応することができるようになり、お客様の満足につながっていく・・・・。これが「ネオアーク」という企業なのだ。

ネオアークが開発・製造するレーザ光源各種。赤・青・緑・黄と全ての光源を製造できるネオアークは、レーザの性質・特長を完全に掌握しているのだ

 
編集後記
 今回、ネオアーク株式会社を訪問して、城社長と社員ひとりひとりのレーザーに対する、共通の熱い思いというものを強く感じた。

それは、社長が持っている思いが、社員ひとりひとりに隅々まで伝わっている証であり、社員ひとりひとりも、「やりたい仕事をやらせてもらえる」という、この会社独自の社風を十分に活用し、会社のため、自分のやりがいのために役立てている。ネオアークは、そういった社長と社員がひとつになった会社であると言える。

実際昨年より、米国の有名な研究機関で働いていた若手女性研究員も、城社長の経営方針及びネオアークという会社に魅力を感じ、現在ネオアークに入り、第一線で働いている。こういったことからも、この会社の魅力をうかがい知るが出来る

我々は、このような魅力あふれる企業を、今後とも末永く見守っていき、数年後またネオアークを訪れた時に、今と全く変わらない城社長およびネオアークという会社の風土に触れることができたらと強く感じている。

(取材日2006年9月11日)