CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第31回 壷坂電機(株)

電気技術と光技術の融合で新境地を見出す

取材先 壷坂電機(株)(代表取締役 長田宏二 )

所在地 八王子市石川町1683-1

電話 042-646-1127

e-mail hirofumi@tsubosaka.co.jp

URL www.tsubosaka.co.jp/

代表取締役 壷坂 博文さん

一眼レフカメラ、コンパクトカメラ、デジタルカメラ・・・。今やカメラは、シャッターボタンを押せばイメージどおりの写真が撮れて当たり前になっている。しかし、その手軽さは、カメラの生産現場で働く“黒子”の働き抜きには成り立たない。シャッター速度や、フォーカスなどカメラの性能を検査・測定する機器がその“黒子”だ。今回は、独自技術でそうした測定器を開発している、壷坂電機株式会社の代表取締役壷坂博文(つぼさか・ひろふみ)さんにお話を伺った。

 

 

カメラ・光学機器向けの測定器では他の追随を許さない

壷坂電機は、数多くの製品ラインナップをかかえており、それらは全て自社製品。壷坂電機の技術・開発力の高さが伺える。中でも主力はカメラ用測定器で、カメラメーカー全社に納めている。これだけの実績を持つのは、国内では他に1社しかないが、自社開発という点では、壷坂電機が唯一の測定器メーカーである。

さらに、一口にカメラ用の測定器といっても、対応するのはシャッター、ストロボ、フォーカスなど各機能に及んでいる。つまり、カメラという最終製品が出来上がるまで、壷坂電機が開発した製品群が、その多くの工程で登場してくるというわけだ。

 

 

自宅の庭のプレハブからスタート

壷坂電機の創業は、1971年のこと。それまで勤めていたカメラ用測定器メーカーの倒産がきっかけだった。若手技術者として製品の開発にあたっていた壷坂さんは、当時37歳。それが、倒産という予期せぬ出来事に見舞われてしまったのだ。それでも、「携わっていた測定器の業績不振によるというならまだ、諦めもつきます」が、倒産は他の要因によるもの。壷坂さんの測定器開発への覚めやらぬ想いと、「今まで使って頂いていたユーザーへのアフターサービスをしなければ」という想いは強く残った。そこで、志を同じくした技術者を集めて会社を興すこととなったのだ。“新社屋”は自宅の庭に建てたプレハブ。そこに、創業期としては常識破りといえる、12人体制という大所帯でスタートした。恵まれていたのは、前の会社の業務を引き継ぐ形になったため、取引先も顔見知りばかりで、販路が比較的容易に確保できたこと。これで、早いうちに経営を軌道に乗せることができたのだ。

 

 

製品開発力に自信あり!!

壷坂電機の強みは、電気技術と光学技術をベースにした自社製品開発へのこだわりを貫いてきていることだ。完成度の高い自社提案、自社開発を行っていれば、それだけ幅広いユーザー顧客に自社製品を使ってもらえることにもなる。「30年の歴史の中で下請けをしたことがない」のはその証である。

製品のアセンブリは、市内他社にアウトソーシングしているが、開発、検査、営業・販売はすべて自社の28名の従業員=技術者で行っている。もちろん、製品のオーバーホールなどアフターサービスも自社で対応する。最近は、「不景気なため、機械は買い替えではなく、オーバーホールで凌ぐユーザーさんが多い。本当は、新規に購入して頂きたいんですけどね...」と、笑顔に本音もチラリと混じる。しかし、壷坂電機の製品は10年経っても、オーバーホールすれば使えるのである。これもまた、製品としての完成度の高さを物語るエピソードだろう。

 

押し寄せるデジタル化の波

 創業30年、安定した業績を積み重ねてきた壷坂電機だが、前期あたりから初めてかげりが出てきているという。原因は、カメラのデジタル化である。ここ数年のデジタルカメラの普及は、目覚しいものがある。2006年にはデジタルカメラの販売台数が、光学式カメラの販売台数を逆転するとも言われている。そうした流れの中で、各カメラメーカーもデジタルカメラをメインに生産体制をシフトし始めた。そのため、壷坂電機が誇る光学式カメラ用測定器の需要が下降線になってきているのだ。もちろん、そうした流れに対し、手をこまねいている壷坂さんではない。デジタルカメラはその方式が光学カメラと異なるとはいえ、シャッターは必須の機構だ。そこに着目して、さっそくデジタルカメラ用シャッターテスターも開発している。
 しかし、難しい点もある。壷坂電機が得意としてきた営業・製造戦略が100%は活かしきれなくなっているのだ。従来は、光学技術全般に対する明るさを最大の武器に、壷坂電機からカメラメーカーに対して提案し、測定器にプラスアルファの機能を付加してきた。それだけ、顧客ごとに相当突っ込んだ技術情報を得ることもできた。ところが、デジタルカメラはCCDで光をキャッチする点は各メーカーとも共通だし情報提供もあるのだが、それ以上の情報となるとなかなか出さないのだという。こうなっては「提案の壺坂」の強みが活かせない。

「デジタルカメラは、我々から見るとブラックボックスなんです」。その言葉に逆提案出来ないもどかしさが伺えた。

 

 

ピンチを打開するために、ひたむきな製品開発

このように、カメラ部門だけに着目すると確かに厳しい面もある。が、そこは持ち前の開発力で新境地の開拓も始めている。例えば、今後あらゆる電子機器で活用されるであろう、液晶ディスプレー(LCD)用の輝度、色度を測定する機器や、CRTの検査時間を劇的に短縮させることに成功した「CRT“q”テスター」の開発などである。特に、「CRT“q”テスター」は、特許技術となっている。

しかし、壷坂さんは、この現状に甘んじてはいない。さらなる製品開発に結びつけようと、産学連携や産産連携にも積極的だ。産学では東京農工大学や電気通信大学のTLOと積極的に関わり、技術シーズの発掘に余念がない。また、中小企業同友会などの異業種交流会へも積極的に参加している。我がサイバーシルクロード八王子が主催した、技術交流会「テクニカルカンファレンス」にも参加し、新境地を模索している。今後は、自社の持つセンサー技術を元に、医療機器などの分野へも意欲を燃やしている。“黒子”として精密光学製品を支えてきた壷坂電機。今後、その“黒子”としての活躍をどんな分野に広げていくのか、注目したい。

 
編集後記
 技術者らしく、言葉少ない語り口の壷坂社長であったが、こちらの質問に答えていただくうちに、製品開発秘話などを語ってくださった。工場の外見からすると、とてもカメラの機能を測定するような精密機器を製造しているように見えなかったが、内部では若手の技術者がそれぞれの作業をこなしていた。
社内には、各カメラメーカーからの感謝状が並び、壷坂電機の技術力を物語っていた。デジタルカメラの台頭で、厳しくなってきていると伺ったが、新境地を開くために精力的に活動している。きっと、近い将来新たな製品がラインナップに加わっていることだろう。
 デジタルカメラの勢いがとどまることを知らないが、まだまだ銀鉛写真の魅力も失われていないはずだ。写真を加工したり、電子化された文書に添付するなどは、デジタルカメラに軍配が上がるが、銀鉛写真の方が味があるように感じてしまう私は、懐古趣味なのだろうか?
(取材日2003年1月28日)