CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第13回 (有)ケイ・エス・エル

知識とシステムの融合

取材先 (有)ケイ・エス・エル(代表取締役 川口文朗)

所在地 八王子市台町3-19-32 シティハイツ八王子1F

電話 042-655-2951

e-mail pegasus-kgc@nifty.com

西八王子駅近くにある、(有)KSL、KSLとは、

Knowledge System Laboratoryの略だ。

 “知識とシステムの融合”――この難しいテーマに挑み、英会話塾と学習塾を経営する傍ら、独自の技術・理論を活かした情報システム開発を行なっている会社が、有限会社ケイ・エス・エル(KSL)である。

 

 

“知識とシステムの融合”様々な分野への情報処理技術の適用を目指す

 自然科学の分野から社会科学の分野まで、様々な分野の知識・概念がある。そうした知識とシステムとの融合を、KSLは目指している。その中でまず着手しているのは、“教育とシステムの融合”だ。具体的にはKSLでは、教育事業として英会話塾と小中学生向け学習塾の経営、そして情報関連事業としてシステムコンサルティング・開発を2つの柱としている。この2本の柱に、梁としてITを最大限に活用した事業を行なっているのだ。
 かつて、パソコンを活用した教育は、“パソコンが先生の代わり”になっていた。しかし、川口さんが実践していることは、“講師と教材とパソコンが三位一体”となった教育なのである。英会話にしても、教科の学習にしても、「パソコンを使って文章を打ち込むことができる」だけでは使いこなしているとはいえない。
  「例えば、理科であればパソコンを通じて星座の動きなどを疑似体験することで、自然現象に興味をもってもらうことが大事」と川口さんは語ってくれた。KSLは、パソコンというツールを通じて、“現象と理論の乖離”を埋め、物事に対する探究心、自分の知識の穴を発見するなど“自ら学ぶ力”を育てることに注力している。
 

 

米国と日本との情報教育の格差を痛感

川口さんは、大学時代は工学を専攻し、その頃からコンピュータとの付き合いが始まった。卒業後大手カメラメーカーの中央研究所を経て、大手証券会社の経済研究所で金融工学を研究した。

そんな中、1994年に渡米した際に、ヒューストン、ニューヨーク、シアトル等の都市を巡りながら、技術者と意見交換する機会を得ることができた。そこで感じたことは、米国はコンピュータに対する考え方も、子ども達の使い方も全然違うということだった。子ども達は、カリキュラムどおりの教育ではなく、一つの道具としてコンピュータに慣れ親しみ、「コンピュータで一体何ができるか?」というアプローチで学んでいるという。

  「日本では、むしろカリキュラムがしっかりしすぎていることが、弊害となっているのでは?」と語る川口さんは、パソコンを通じて個々の興味を伸ばしていく努力をしているのだ。だから、川口さんは毎週土曜日に、小中学生向けパソコン教室を開催したり、高齢者向けパソコン教室を開催するなど、情報化社会における人材の裾野を広げる努力を行なっている。

 

 

「エンジニアリング技術と金融工学との融合から生まれた独自システム」

川口さんは、多様な分野の知識を習得している。光、電波、超音波など応用物理の分野から、情報処理、人工知能、CGといったIT分野、そして金融工学などである。

「自然科学と社会科学の両方を経験できたのは大きかった」と、コンピュータ介して様々な分野にアプローチしてきた。そうした経験から、システム開発事業でも新たな製品を開発したのである。「MRM、MRC analyzer」と呼ばれるそのシステムは、まさに波動現象という応用物理の理論を、マーケット分析に応用したものである。

そのシステムは、単にマーケット動向を予測するためのシステムではなく、「今を分析するために、どの時点を参考にしたらいいのか?」「過去に同様の現象が現われていないか?」の調査、分析を行うことで過去の知識を有意義に活用する教育システムになっているのだ。そうした分析を元に人が“意思決定をするための支援ツール”となっている。

  川口さんの言葉を借りれば、「人がものを考えるためのシステムを提供する」ということなのだ。そこには、“知識とシステムの融合”という企業理念が活かされている。

 

KSLの未来

KSLの今後の事業展開を尋ねると、「コンピュータの周辺でビジネスを考えていきたい」と川口さんは語った。そのためには、「自分で市場を開拓していかなくてはならないし、その中でビジネスチャンスが見えてくる」とのこと。

高度情報化社会を向かえ、今一番大切なことは、結局のところものごとを考えるのは人間であり、その感性を磨くための支援ツールとしてコンピュータがある。コンピュータがはじき出してくれたデータを、どう読み取り、どう発展させていくか、そうした能力を磨いていかなくてはならない。そういう意味からも、川口さんの教育にかける思いは強い。

「人は、生涯学びつづけるもの。その入口に立っている小中学生が、息切れしたり諦めたりしないような“真の学びの姿”を教えています」とは、KSLの広告の文句である。それは、企業ボランティアとして実施している「不登校児童への情報処理等の教育支援」にも現われている。不登校の子ども達に対して、パソコンルームを無料開放し、学ぶことへの欲求を掻き立てる試みを行なっている。

  戦国時代から、「人は城、人は石垣、人は掘」という言葉で何事においても“人”の大切さが説かれてきたが、「人づくり」にかける川口さんに今後とも期待したい。

 

編集後記
非常に穏やかに、淡々と語る川口さん。話を伺っていると、その知識の広さと深さには本当に感服してしまう。教室を覗かせていただくと、そこには一人一台のパソコンが配置され、教育ソフトも日本のものからアメリカのものまで取り揃えられていた。

塾の会費システムも面白い。何科目、何時間受講しても定額制だという。「そんな価格設定で大丈夫なんですか?」との問いに、「日本の教育産業が高すぎるんじゃないかと思い、新たなビジネスモデルが通用するか試している」とのこと。生徒は現在50人とのことだが、教育方法も浸透しているようで、我々がヒアリングしていると休みと知らずにやってきた少年が、「今日はお休みだよ」と聞いてがっかりして帰っていった。彼らにとって本当に“良い学び舎”になっているようだ。“知識とシステムの融合”という新たなテーマに取り組む川口さんに、今後とも注目したい。

(取材日2002年7月31日)