CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第93回 リブト(株)

『医師達の「あったらいいな」をカタチにする』

取材先 リブト株式会社(代表取締役 後藤広明社長)

所在地 東京都八王子市明神町4-9-1-301

電話 042-649-3491

URL livet.jp

 

IMG_5566            代表取締役・後藤広明氏

 現在、日本では医療機器ベンチャーが育ち難い環境と言われている。八王子市明神町に事務所を構えるリブト株式会社では、大企業が市場規模等(市場が小さすぎる等)の理由で手が出し難いニッチ領域やまだ顕在化していない潜在市場に対し、果敢にチャレンジしている。この姿勢に多くの医師、医療従事者が共感し、多くの人々に支えられている。


今回は、医療の発展のために日々、精進しているリブト株式会社、代表取締役社長・後藤広明氏にお話をお伺いした。

 

国内最大手内視鏡メーカーからの独立

 父は薬を作る研究者、母は看護師、祖父は軍医という環境で育った後藤氏。特にメディカル分野に関心はなかったそうだ。むしろ血は苦手で、機械いじりが好きだったことから大学は工学部機械学科へ進学。だが、大学卒業後、縁あって国内屈指の内視鏡メーカーに就職、その後手術機器の製作部署に配属された。エンジニアとして活躍しているうちに、血は苦手だが医療に惹かれていく自分に気付いたそうだ。「どうしてこの機器を作ってほしいんだろう…」
後藤氏は医師の気持ちに非常に興味があったと言う。その様な動機から、6年間培ったエンジニア職を離れ、営業職に部署移動をさせてもらった。医者の最も近くで、現状を目にし、様々な悩みや苦悩を目の当たりにした後藤氏は「先生の困っていることを解決したい」と強く思うようになった。
大手企業はブランド性、資金に富み、殆どのニーズには応えることが出来るが、マーケット規模の小さいものや、他社製品が絡むといった「小回りの利く仕事」を唯一苦手とする。営業になり後藤氏が感じたことは、医者の本音は特定企業の機器に留まらず、場面や用途によって各社製品を使い分けがしたいということだった。
「医者達の本音に応えられるプレーヤーが登場してこないものか…」
だが、一向にそのようなメーカーは現れなかった。「いくら待っても現れないとなると、社会的なロスは非常に大きくなってしまう」そう感じた後藤氏は34歳のとき、独立を決意した。IMG_5570

本気の創業塾での出会い

独立を決意したものの、当時は経営の「け」の字も知らなかったという。インターネットで様々な情報を調べているうちに、サイバーシルクロード八王子「本気の創業塾」のページに辿り着いた。ビジネスお助け隊を始め、市役所、商工会議所、また、同じ志を持つ同期との出会いは会社設立後においても非常に重要なネットワークになったと話す。
会社設立後はIT事業を会社の柱としていた為、港区に事務所を構えたが、都心では「ものづくり」という点に関しては不便なことが多かったそうだ。会社が軌道にのり、黒字化がぼんやりと見えてきた時「税金を納めるならどこか」を考えると創業塾での出会いもあり「やはり八王子だ」と思ったと話してくれた。

リブト㈱の現在

 リブト株式会社は今年で設立8年を迎える。代表・役職員含み現在の従業員数は9名。イレギュラーなことが起きても、一通り対応できる形式が出来上がり、内部基板の形が出来あがってきたという。
現在は、ISO13485取得から1年が経過し、より多くのものが作れるようになった。「従業員数は少ないが、レベルが高く、効率的に仕事をしている。だが、医療機器なので1つのミスで会社も終わってしまう。その分、個人に求めるものは高く、シビアになってしまう」と後藤氏は話す。

 

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仕事との向き合い

「(仕事は)すごく楽しい。起業なんてしなければ良かったなんて思う瞬間は今までに1秒たりとも無い。むしろもっと早く創業すれば良かった」即答で後藤氏は話してくれた。
「この業界のこの仕事は、もはや仕事ではなく『ライフワーク』であり、自分は、医療に関して医師達を支援することをミッションとして生まれてきたと思っている」と話してくれた。IMG_5560ここまで医師達に対して確固たる想いを抱える理由は何か。
尋ねてみると、過去に死にかけたところを医師に救われた経験があるわけでもないという。その理由はやはり育ってきた環境にあったのだ。
当初は患者の為になりたいという気持ちももちろんあったそうだ。生まれながらにして医療系の下で働く家族の中で育ち、更に親しくしている後藤氏の姉夫婦は看護婦と医師という環境の中で、多忙のあまり時間はもちろん、家族さえも犠牲にしているリアルな医師達の実態を目の当たりにし、「この忙しい人達にこれ以上手間をとらせたくない。この人達が喜ぶこと、役に立つことをとにかくやりたい。」と強く感じるようになったことがきっかけだったそうだ。
週休2日はしっかりとっているが、常にマインドは24時間365日医師達のことを考えている。「先生の『ありがとう』が俺のご飯になるということは1秒たりとも頭からは離れない。ここまで存続させてもらえた事からも、この仕事を天職だと思っている」と話してくれた。
現在、日本には30万人程しか医師はいない。この30万人に対して「テコの原理」を用いることで1億2700万人の国民が恩恵を受けることが出来る。後藤氏は「何のために医師に尽くすのか」、この考えを従業員に徹底して共有させているという。この考えを忘れて商品を売り込む従業員に対しては、厳しく指導するそうだ。
「将来自分自身がこうなりたいっていう個人的な夢はない。その代わり、医者に喜ばれ続けることが自分の喜びだと気付いた」と話してくれた。IMG_5577

リブト㈱のこれから

 設立当時は医療系IT事業として展開していたが、ここ数年では専ら医療機器事業が会社の柱になっているという。最近では、医療機器事業の枠組みが大筋出来てきたこともあり、新事業へのチャレンジに画策している。具体的には、医療系事業の海外進出に積極的に取り組み、既に今年はタイ・台湾へ渡り、将来に向けての仕事環境を整えている。新規で機器を作らずとも、既存機器の応用方法をセミナーによって紹介する等、かたちは違っていても医師達の役に立てることはたくさんあるという。

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 現在は9(医療機器):1(IT系)で事業を行っているというリブト株式会社。その中でも特に強みとしているのは「在宅医療」だと後藤氏は言う。医療機器メーカーは数多くいるが、在宅専門メーカーは無いそうだ。可能な限り、小さい企業同士が成り立つ様、自社製品にこだわらず、他社製品ともタックを組むことで「在宅医療」に対する強みは増して行く。最近では、「在宅」に1番詳しいプレーヤーとして、医師からも「よく分かっているね」と言われることも多くなってきたという。
大企業が「やらない」「やれない」「やりたくない」領域のことをニッチに行うプレーヤーになるということであり、課題解決のためであれば競合他社製品でも売り込むソリューション営業スタイルを後藤氏は大切にしていると言う。単なるものづくりの会社ではなく、たまたまものづくりをしている会社であり、医師の意向に沿うプレーヤーが不在であれば、可能な限りチャレンジをする。今後は、リブトの様な小回りの利く医療ベンチャーがもっと増えてくれることが現在の願いだという。
設立から8年目に突入し、次のステップとして新たな展開を試みて、社会のお役に立つスピードをあげたいと話してくれた。

 
編集後記
 今回の取材を通して、最も印象深かったことは「(この仕事は)もはや仕事ではなくライフワークだと思っている」と話していたことだ。また、リブト㈱で働く従業員達は後藤社長の意向をしっかり理解した上で働いている。
医師達に喜ばれることをミッションとして生きている、と力強く語っていた姿は、今後の日本の医療を担う企業になるに違いないと確信した。

(取材日2015年8月27日)