CO.HACHIOJI元気な企業インタビュー

第35回 (株)谷口電子

高度な技術力で「人の眼」をシステム化

取材先 (株)谷口電子(代表取締役 谷口光雄)

所在地 八王子市丹木町3丁目162-5

電話 042-691-0611

e-mail cte@tc4.so-net.ne.jp

URL www.cteweb.net/

代表取締役 谷口光雄さん

私たちが外部から受け取る情報のうち、「視覚」による情報は80%以上を占めると言われている。産業界においても、「視覚」は重要な役割を果たしている。映像産業においてはもちろんのこと、生産ラインの視覚センサー、監視用カメラ、交通管制など、「視覚」の活用範囲は広い。この「視覚」にこだわり、CCDカメラと画像処理技術を組み合わせた超高度な「視覚」システムを探求している企業がある。八王子市丹木町にある「株式会社 谷口電子」である。今回は、創業経営者の谷口光雄(谷口・光雄)さんからお話を伺った。

 

 

事業の船出は放送機器のメンテナンスから

“大変な時代”はまた、チャレンジャーが多く生まれる時でもある。1978年、オイルショックの荒波に襲われ再編淘汰を迎えていた電機業界でも、大きな会社を後にするスピンアウト組が次々と生まれていた。28歳の谷口さんもまた荒波を推進力に変えて独立創業した1人だった。当初は工場も持てず、放送機器のメンテナンスが主な仕事だった。

独立以前の谷口さんは放送機器メーカーの製品検査部門で放送局に納める機器の検査を担当しており、折から開局ラッシュを迎えていた全国各地のUHF局を飛び回っていたのである。そして、その誠実な仕事ぶりが得意先で評価され、独立後の事業を支えることになったのである。

   外見からは想像もできないような「実力」を秘めている谷口電子。
 

 

常に高い「目線」で事業展開を追求

   大手メーカーからも一目置かれる谷口電子の技術的基盤を整備した松本義之さん。 しかし、放送機器・システムの業界は、専門特化された狭いマーケットに日本を代表するような大手電機メーカーがひしめいている。そこへメーカーとして新規参入することはたやすくはない。「いずれは自立メーカーへ」。そういう夢を抱きながらも、実際の谷口電子は何社かの大手企業から部分的な仕事を請け負う下請がメインだった。それでも、そうした仕事を着実にこなすことで、業績は順調に伸びていった。そこで、創業から4年目を迎える頃から、谷口社長は独立当初から温めていた「自立の夢」を実行に移す決断をした。自社で設計・開発が行えるように業態をシフトさせ始めたのである。
 そのため、谷口社長と同じ放送機器メーカー出身の技術者である松本義之(まつもと よしゆき)さんが、営業技術の担当として谷口電子に加わった。松本さんは、谷口電子に来ると、まず、標準化技術の確立に取り組んだ。これは、一言でいうと、発注元である大手企業の品質監査を満たすための基準づくりである。今日でいうISO9000シリーズと同等の価値を持つ技術であり、大手メーカーと取引してもらうためには不可欠な要件でもあった。そして、これが「基礎固め」となって谷口電子は大手メーカーの放送機器をOEM生産するようになる。同時に、東芝、NEC、SONY、浜松ホトニクス、TBSなど、日本屈指のメーカーや放送局と直接取引のできる「口座」も持つようになっていった。

 

 

幅広い「視野」で、異業種との交流を

谷口電子は従業員10名程度の規模である。こうした企業が大企業と直接取引きできる「口座」を持つのは稀だ。それだけ谷口電子の技術力は高くて素晴らしいのである。しかし、放送機器は受注生産のため計画生産が出来ない。そこで、事業の目線を常に高く持ち、自立メーカー化を展望してきた谷口社長は、放送機器から画像処理へと事業分野の転換を図ってきている。また、最近ではOEM製品、自社製品のラインナップも豊富化し始めている。また、営業窓口となっている松本さんも事業展開の可能性に思いを巡らせ、異業種交流活動を積極的に捉えている。「業界の中に浸かっていると、固定した考え方しか生まれてきません。異業種の方と交流してみると、私たちの技術も思いがけない所で応用できることが発見できて、面白いですね。これからも、積極的に異業種と交流していきたいと思っています」。
    様々なシステムに組み込まれる谷口電子のCCDカメラ。直接、目にすることはないが、社会の隅々で活躍している。
 事実、谷口電子の技術は、放送業界の枠を超えて意外なところで活躍をはじめている。もちろん、その基盤となっているのは、放送業界向けプロ用機材の開発・製造で培ってきたCCDカメラと画像処理の高度な技術力である。例えば、基板のハンダ付けを検査するためのX線検査装置などの「非破壊検査装置」。さらに、交通管制制御システムや空港の監視システムなど。谷口電子の活躍のフィールドはますます広がりを見せている。「危険性があったり、汚かったり、物理的に狭かったりと人が入り込みにくい場所へ人の眼の代わりとなって入っていくなど、まだまだ、CCDカメラや画像処理技術が貢献できる場面があるはずです」「そのためにも、異業種との交流を大切にしていきたいと思っています」と谷口社長と松本さんは、放送機器以外の業界への進出にも意欲を見せている。

 

熟練工の「眼」と「判断力」をシステム化

    社内では、製品の設計・開発、検査に注力。製造は、外部に委託している。 らに、谷口電子の技術開発力は、熟練工と呼ばれる人たちの「ノウハウ」を自動化するための画像解析装置の開発においても、威力を発揮している。熟練した「眼」の代わりとなるCCD技術。熟練工の豊富な経験にもとづく判断力を盛り込んだ画像処理技術。この二つを組み合わせることによって、これまでの単純な機械化・自動化では不可能であった、「達人」の領域にまでシステムが踏み込むことができるというわけである。  その一例として、谷口電子は、半導体ウェハーのメーカーから依頼された「炉」の監視・制御装置の開発にも成功している。半導体の製造に不可欠なシリコン・ウェハーは、炉の中でシリコンを熔解し、その単結晶を引き上げながら、成長させることによって生産される。
その製造過程では、熟練の技術者が、小さな穴から炉の中を観察。熔解しているシリコンの微妙な赤い色合いの変化を見ながら、炉の温度や引き上げ速度を微調整していく。この工程を機械化したいという要請があった。そのウェハー・メーカーでは、様々な会社に打診してみたが、いずれも、「とても無理だ」と断られてしまう。そして、最後に、谷口電子に白羽の矢が立てられたのである。谷口社長をはじめ、同社の技術者が何回も現場の「炉」を訪れ、機械化の方法を模索した。「最初は、あまりにも微妙な変化なので、説明されてもさっぱり見分けがつきませんでした」。しかし、谷口電子の開発力は、ついにこの難問をクリアーした。日本中のどのメーカーもが尻込みした難関を、谷口電子が見事に突破して見せたのである。こうした、実績が「クチコミ」で伝わり、今、谷口電子には全国から次々と新たな難問が寄せられている。「やはり、開発者として、誰もができなかった仕事をやり遂げたときが、一番嬉しいですね」と、谷口社長。メガネの奥の優しい眼が、静かに微笑んでいた。

 
編集後記
「ナンバー・ワンからオンリー・ワン」へ。産業の構造変化とともに、企業の存在意義も大きく変わりつつある。徒に規模の拡大を求めるのではなく、自社のコア・コンピタンスをしっかりと見極めて、「質の充実」を重視する経営へ。谷口電子も、まさにそんな会社だ。

10名ほどの従業員規模でありながら、ある面では「日本一」となる仕事を、次々と成し遂げている。そう聞くと、会社の雰囲気もさぞかしピリピリしているのではないかと思うが、谷口社長も松本さんも、実にジェントル。積極的な営業活動をしてこなかったが、これまで順調に注文が入ってきているという。もちろん、そこでものを言うのは他のメーカーではできなかった難題をクリアーしてきた谷口電子の実績だろうが、お二人の「人柄」も大きく貢献していると思われる。やはり、メーカーにとって最大の武器は、技術力であり、そこに働く人たちの「人間力」であると、痛感させられた。

(取材日2003年2月18日)